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勝利投手

離陸が遅れたので、飛行機の中に5時間ぐらい閉じ込められた。手をいれるゲラが山ほどあったのに。3分の1しか仕事バックには入れていなかった。失敗。
 すぐにカブスに行く予定だったが、雨で試合開始が遅れた。
 Mがささっと夕食を用意してくれて、パパと食べてから、それぞれ仕事モードへ。
 雨はふるし、寒いし、長い試合になった。

 LAXで何があったかは、また後日書くかもしれない。
 ともかく自宅にもどったら、「勝利投手」を読もう、と思った。若気に至りというか、気恥ずかしくて、10年以上遠ざけていた作品だ。
 読みたい、なんて思ったのは20年ぶりぐらい?
 でも、やっぱりあそこには私の原点が詰まっているはずだ。

 読まなくても前半までのストーリーは鮮明に思い出すことができる。19歳から20歳にかけて、私は夢中になって大学ノートに綴っていた。「連載」という形で、自分でつくっていたミニコミ紙「星野新聞」に発表していたのだ。

 まず舞台は夏の甲子園大会。大会屈指のサウスポーとして、注目と話題を集めていたのは、S高の羽田真佐だった。(私になついていたいとこが、梅田真佐という名前だったから、一字だけ変えた)

 この羽田投手、才能はずばぬけているのだが、どうも挙動不信。いつも帽子を深くかぶったままで顔を隠し、試合後の会見もすべて完全に拒否。
 
 野球評論家の星野仙一は興味をもち、決勝戦は記者席で観戦することにした。

 完璧なピッチングをみせ、なんとパーフェクトゲームのまま9回へ突入。

 いくらなんでも試合後は機嫌よく取材に応じてくれるはずだ・・・と安堵感に包まれていた記者席の空気が凍りつく。9回2死で、いきなり羽田投手の交代がアナウンスされたのだ。
記者たちは完全に裏をかかれてしまった。
 星野だけが「こんなことだろうと思った」とつぶやき、ベンチ裏に先回りしていたのだが、やはりタッチの差で羽田にはあえず終い。そこで、S高の女子マネージャー、国政克美と出会う。

 国政克美のモデルは広岡達朗の長女・祥子さん。私は短大のとき、広岡監督の「意識革命のすすめ」や広岡監督のモデル小説「監督」(海老沢泰久氏の名著)にはまっていた。
 あるとき神宮の野球場で、女子野球チームの一員として練習している祥子さんを偶然に見かけ、「勝利投手」のプロットは簡単にできあがった。
 名前は実践短大のクラスメートから拝借。その子は「国政由美」だったけど、中性的な名前にしたかったから、「克美」にした。
 短大の授業中に書いていたから、脇役の名前は教授の名前がずらり。

 さてさて、星野はドラフト会議を前にして、ふたたび羽田の影を追う。
 もちろん他球団も。ところが、羽田は進学を理由にスカウトに会うことすら拒否する。

 じきに星野一人だけが、驚嘆の真実に到達する。偶然の積み重ねと勝負師としての直感が、それを引き寄せたのだ。
「羽田なんて男は甲子園では1球も投げていない・・・!」
 S高野球部はチーム一丸となって、世間の目をあざぬいたのだ。羽田は替え玉にすぎない。
 
 あの当時は高校野球の規則で、女子選手は登録できなかった。もちろんプロでも許されていなかった。

 そして、迎えた運命のドラフト会議。
 ライバル巨人は羽田真佐を1位で指名。

「やはり巨人とは密約があったのだろうか?」
 と関係者はざわめく。が、国政監督は愛娘・克美の言葉を反芻する。
「羽田くんは絶対プロには行かない。指名したらクジを損するわよ」

 たしかにこの言葉にウソはなかった。が、真相にまったく気がついていない国政監督は次の瞬間、中日の1位指名選手を見て、愕然とする。国政克美!

 とまあ、こんな感じが前半。後半は日本シリーズで父娘対決するのがクライマックスだったはず。
 まだワープロもパソコンの時代ではなく、私は文章を整えながら原稿用紙400枚にこれをうつし、短大のロッカーに保管していた。
 卒業するときに出版社にそれをおくり、電話をもらったのは半年後だった。
「文藝賞の有力候補にあがっています。面白いから賞をとらなくても、本にして出版する予定でいます」
 その数週間後に現実の世界では、星野仙一が中日ドラゴンズの監督に就任。文藝賞の受賞パーティーには祝電をおくってくださったし、翌々日だったか、浜松の秋季キャンプで婦人公論の対談を行われた。
 
 国政克美の存在がプロ野球界を騒然とさせるのだが、「勝利投手」のはちゃめちゃぶりは文壇すずめを騒然とさせた。当時の読売新聞の書評欄にはそういう内容のことが書いてあった。「朝日ジャーナル」でもこれが漫画であって、文学ではない、という記事が載ったし、「本の雑誌」とかもページをさいていた。
 事実、文壇バーみたいなところに行くと、びっくりするほど大物の作家先生たちが私のことを知っていて、説教されたりもした。

 読み返してみると、うまいとか、才能とかはさっぱり感じない。結局「人との出会い」が私の原点であり、モチーフなのですね。前年の文藝賞は山田詠美著「ベッドタイムアイズ」だったのに、よくもまあ、とおしてくれたものだ。
 後で聞いた話、選考委員の江藤淳氏が熱烈な中日ドラゴンズのファンで、編集者たちもびっくりするほど熱く、「勝利投手」をプッシュしてくれたそうだ。

 それにしても、この1冊の本が私にもたらしてくれたものは、あまりにも大きかった。
 


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