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濡れ衣

ブレードを新しいものに変えてから、長女は調子が悪く、はじめて「もうスケートをやめようかな」と言い出した。 
 親としてどうアドバイスしたらいいものなのか。
 正直やめてもいいと思うのだ。
 まだ若いのだから、他に興味のあることが見つかるかもしれない。
 勝ち負けはともかく、1つのことをコツコツつづけるって、とても価値のあることだ。でも、とてもむずかしいことだもの。

 どういうタイミングなのか、今頃になって解雇したコーチのデニスから謝罪のメールがきた。アメリカ人女性が謝罪するって、実に珍しいことだ。
 子供ってコーチの言うことは丸ごと信じてしまうからねぇ。
 
 長女にはAという、スケート友だちがいた。日系アメリカ人なので、日本語はまったく話せないが、小さい頃から仲良しだった。
 そのAがアイポットを盗まれた。デニスや他のお母さん2人が何も証拠がないのに、うちの子が盗んだと決めつけ、大人3人対子供1人で、6時間ぐらいせめたて、「盗んだ」という自白を強要させた。Rの母親なんて「これであなたのスケーティング・キャリアは終わりよ。ジュビナイル・ジェイル(少年院て訳せばいいのかな?)に行きなさい!」と叫んだそうだ。

 その間、携帯電話をとりあげられて、長女は私には連絡ができず、終わってからわんわん泣いて「私は絶対にやっていない!」と電話してきた。私はすぐにデニスに「そんなわけがない」と言ったが、デニスは「残念ながら彼女がそれを認めたのよ。」「私は4人の子どもを育て、そのうち2人は何度もカウンセラーの世話になった。だから、彼女の目をみればわかるの」「もう6時間も彼女と話をしたから、疲れた。この話は終わりにしたい」とまあ、こんな感じだった。

 実はその数日前、いつも練習しているリンクの事務所に、日本から電話が入り、「その子はものを盗むから、レッスンしたり、練習をさせないでくれ」という告げ口があった。そのときはデニスも「クレージーなスケートママはどこにでもいるのにね」と笑い飛ばしたのだが、結局はそれが頭にあったらしい。
 
 そして、うちの子をリンクから追い出した後も、不思議なことにデニスの生徒たちの間では盗難騒ぎはつづいた。
 デビッド・サンティーはこの件でかんかんに怒り、「オレは6歳のころからミッキーを知っているんだぞ」とデニスに抗議してくれた。
 が、しばらくはデニスも頑固だった。自分の生徒たちに「あの子はdisorder(障害者)だから、ものを盗む。カウンセラーに行ったらなおるはず。私の息子もそういう傾向があったけど、カウンセリングに行ったら直ったもの」と話したそうだ。
 
 しかし、日本の公式戦に出場しているのとほぼ同じ時間、いったい全体どうやって米国シカゴでものを盗むというのだろう?
 結局デニスといっしょにいちばん責めた母親の娘のRがあっさりと「私が盗った」とカウンセラーに話したそうだ。
 もともと兄にその傾向があり、同じカウンセラーにつれていったのだ。

私は紹介されたカウンセラーには連れていかず、ホームドクターに相談し、長女と1対1で話しあってもらい、「この子は悪くないんだから、カウンセラーには連れていかないほうがいい」と言われたときは、涙がとまらなかった。「中西部で日本人が生きていくことのむずかしさを感じた」とも言われた。ドクター自身、小学生のときロサンゼルスにきて、苦労して医者になった人だ。亡くなった父上はロサンゼルス・ドジャースの日本人球団幹部一号だった。

 日本からわざわざリンクまで電話してきたお母さんと私はもめた記憶はなく、1年半以上も会っていない人だった。私のことが嫌いだったのかな。それなら私のことを攻撃してくれたらいいのに、どうして中学生なんかをターゲットにしてしまったのだろう?
 うちの子にしてもそのうちの娘にしてもRにしても、正直いってトップレベルどうこうじゃないのですよ。2回転ジャンプを6種類ノーミスで飛べるか、飛べないかのレベル。上のほうにいる親子はもっと違う方を向いているのだから。

 長女はあの件で、自分も上のほうへ行きたい、と考えたらしい。「やめる」なんてまったく考えなかったらしく、びっくりするほど精神的に強くなった。西日本のときは最終グループに入ったので、上手な子たちと仲良く話ができたそうで、すごく喜んでいた。 
 神さまがくれたプレゼントだったのだと思う。

 正直disorderという言葉が、私にはボディ―ブローのようにこたえた。打ちのめされたと言っていいだろう。障害者だと言われたのは、長女の責任ではない。理由は全部、母親である私にあるのだ。


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